451・顎十郎捕物帳22「小鰭の鮨(5)」


朗読「顎十郎22-5.mp3」6 MB、長さ: 約 6分 50秒

   出来できすぎ

 手近てぢか浅草あさくさからはじめて、下谷したや本所ほんじょ深川ふかがわとふれあるいて、ちょうどきょうが六日目むいかめ
 三津五郎みつごろう鮨売すしうりをさきにて、半丁はんちょうほどをおいて職人しょくにんとびかという風体ふうてい服装みなりえたアコちょう、とどすけ、ひょろまつ三人さんにんがさりげないようすでえかくれにそのあとからついてく。
 おあつらえどおり手拭てぬぐいの吉原よしはらかぶりに白唐桟しろとうざんこまかいしま着物きもの黒衿くろえりのかかった千縞せんしま半纒はんてんかた鮨箱すしばこをかつぎ、麻裏草履あさうらぞうりつまさきをらせながら、うっとりするようなうつくしいこえで、
「すウしや、小鰭こはだのすウし――」
 と、れてゆく。
 なにしろ、所作しょさごとにかけては五代目ごだいめをしのぐとわれた名手めいしゅ三津五郎みつごろう。これがいき鯔背いなせ代表だいひょうのような鮨売すしうりになっているんだからふるいつきたくなるようないい姿すがた。ちょっとした身体からだこなしにもきちんとキマっていて、なんともえずうつくしい。
 そのうえ、せいぜい三津五郎みつごろうとさとらせたいというのだから、万事芝居ばんじしばいがかりに、をかけた綺麗事きれいごとでゆく。どうたって、ただの鮨売すしうりじゃない。
「そら、三津五郎みつごろうた」
 というので、露地ろじからけだす、もんからびだす。としごろのむすめ大年増おおどしま内儀ないぎ女中じょちゅうまでが、
「あなた、大和屋やまとやさんでしょう。あてましたから、どうぞお印物しるしものを……」
「どうぞ、わたしにも」
 右左みぎひだりからりついて、やいのやいのとたいへんなさわぎ。
 三津五郎みつごろうは、せいいっぱい気障きざに、
「はい、わたしが三津五郎みつごろう近々中村座ちかぢかなかむらざ新作しんさく所作しょさしますについてなにとぞご贔屓ひいきに。はい、どうぞよろしく」
 と、愛想あいそをふりまく。
 もうこのくらいに評判ひょうばんてておけばもうっこんでもいいころ。すし呼売よびりはこの正午しょうご中止ちゅうしにしようというもうしあわせ。
 清住町きよずみちょうのひとかわを呼売よびりしたらこれでチョンということにし、いままでの骨折ほねおりやすめに深川ふかがわ大清だいせい四人よにん大騒おおさわぎをしようというのでもうせきまでってある。
 清住町きよずみちょうとおりぬけてみぎ霊岸町れいがんちょうれまがる。片側かたがわ霊岸寺れいがんじながへい。ひとっのないところだから三津五郎みつごろうをぬいて、すしすしといい加減かげんにふれてく。
 ちょうどてらもんとおりすぎて六間ろっけんったとおもったとき、もんなかからひょろりとてきた二十二三にじゅうにさん優形やさがたおとこふきあつ三枚重さんまいがさねにだいもんのついた小浜縮緬こはまちりめんむらさき羽織はおりをゾベリときかけ、天鵞絨びろーど鼻緒はなおのすがった雪駄せった裏金うらがねをチャラめかしながら日本にほんじゅうの役者やくしゃをひとりで背負せおってったような気障きざなようすで、三津五郎みつごろうのうしろからシャナリシャナリとついてく。
 これが三津五郎みつごろううりふたつ。おなじはらから双生児ふたごでもこうまではていまいとおもわれるほど。
 いつのとったのかかたくせからあしはこびまで、なにもかも三津五郎みつごろうそっくり。
 ひょろまつは、顎十郎あごじゅうろうそでき、
「えらいやつがびだしてました。三津五郎みつごろうのあとからもうひとり三津五郎みつごろうきます」
 にせ三津五郎みつごろうのほうは、うしろから三人さんにんにはがつかないようでシャナシャナあるいてったが、そのうちに霊岸寺れいがんじつづきの冠木門かぶきもんからけだしてむすめにニッコリとわらいかけ、いやらしいしぐさでおいでおいでとまねきをした。
 いまだ十六じゅうろくぐらいの初々ういういしいうつくしいむすめはずかしそうににせ三津五郎みつごろうのそばへってって、かおあからめながらモジモジと身体からだをくねらせている。おとこむすめかたへなれなれしくをかけ、みみくちをあててなにかしきりにささやいていたが、そのうちに中大工町なかだいくちょうのかどで客待きゃくまちしていた辻駕籠つじかご二挺にちょうよぶと、さきの駕籠かごむすめせ、あとの駕籠かごにじぶんがって扇橋おうぎばしのほうへく。
 三人さんにんたかはしょり、駕籠かごのあとについてトットとけだす。

 向島むこうじま寺島村てらしまむら
 皮肉ひにくなことに、三津五郎みつごろうりょう田圃たんぼひとつへだてた背中せなかあわせ。大和屋やまとやになりすまし、五人ごにんむすめかれてヤニさがっているところへ四人よにんみこんで、
「この馬鹿野郎ばかやろうんでもねえ真似まねをしやがる」
 本所ほんじょ横網町よこあみまち薬種問屋やくしゅどいや大松屋又蔵おおまつやまたぞう三男さんなん又三郎またさぶろう。これがひどい芝居しばい愛好者あいこうしゃ三津五郎みつごろうていると近所きんじょむすめさわがれるのでつけあがり、チラとみみにした評判ひょうばん菊人形きくにんぎょう三津五郎みつごろう小鰭こはだ鮨売すしうりからおもいついて、こんなだいそれたことをやった。
 風呂ふろ髪床かみどこで、でたらめな評判ひょうばんりまいてあるいたのも、うまでもなく、この又三郎またさぶろう
「それにしても、馬鹿ばかにも智慧ちえ。じぶんが鮨売すしうりにならずに、役者やくしゃつけでそのうしろからき、濡衣ぬれぎぬのほうは鮨売すしうりにひっかぶせて、じぶんのほうはぬけぬけとむすめきだそうという阿呆あほう阿呆あほうなりによくかんがえたもンだ。小鰭こはだ鮨売すしうりこそ、いい迷惑めいわく