朗読「50-漁師.mp3」1 MB、長さ: 約 1分 38秒
(50)漁師
ある風の凪いだ日、漁師達が浜辺へ出まして、地引の網を引きました。すると、網の手応えが、大変に重いものですから、漁師達も大喜びで、
「これはありがたいぞ、こう手応えがあるようじゃ、きっと大漁だ!」
と、元気を出して、えい、えいと掛声も勇ましく、引き揚げました。
そして、急いで網の中を覗いてみますと、これは何とした事か、手応えがあったと思ったのは、砂や石塊がいっぱい網に引っかかったので、肝心の魚と言いましては、雑魚が二三尾、淋しく跳ねているばかりでありました。
これには、あんまり当てが外れすぎましたので、漁師達もがっかりとしまして、
「なあんだ、つまらない!」
と、急にしょげ返ってしまいました。すると、そこを通りかかりました、同じ仲間の漁師で、もう年をとりましたのが、この有様を見て、
「お前さん達、何もそんなに力を落とすには及ばないよ。善い後には、悪いと言って、あんまり物事が巧く行きすぎると、後がこわいからね。」
と、言って、なぐさめてくれました。