十五少年漂流記(29)

朗読「十五少年7-3.mp3」14 MB、長さ: 約 15分 05秒

ジャックはまたこえをはりあげて、「にいさん、ぼくらせてください!第一だいいちかごるべきものぼくじゃありませんか・・・」ドノバンはそれをきとがめ、
「なぜだ?ジャックくんきみかぎって、第一だいいちらなければならないという理由りゆうがあるか?なぜ、われわれはきみおくれて、らなければならないのか?」
「そうだ、そうだ!ジャック、なぜだ?」と、バクスターも一緒いっしょる。
ジャックは、「だってぼくは、みなさんにたいして、るべき義務ぎむがあるんです」
「どんな義務ぎむだ?」と、ゴルドンも重々おもおもしくいた。
「はい、そうなんです!義務ぎむがあるんです」
へんだな、ブリアンくん一体いったいきみおとうとはどうしたというんだね?」と、ゴルドンはブリアンのにぎった。にぎられたブリアンのは、わなわなとふるえている。いや、体中からだじゅうふるえているのだ。もしこれがよるでなく、ブリアンのかおがはっきりとえたなら、かれかお真青まっさおになっていて、ほおにはなみだつたっているのがえただろう。
ジャックは、まだ十歳じゅっさい子供こども似合にあわない、きっぱりとした決心けっしん態度たいどで、
「ね、にいさん、そうではありませんか、ぼくには義務ぎむがーー」
「どうもおかしいな、ブリアンくん!」と、ドノバンもすすんでた「いや、ジャックくん様子ようすは、なにかわけがありそうだ。ブリアンくん一体いったいきみおとうとは、なぜ、僕等ぼくらのためにいのち義務ぎむがあるというのか?義務ぎむといえば、だれかれも、おたがいに、わなければならない義務ぎむなのだ。なぜきみおとうとばかりにその義務ぎむがあるというのか?」
「ドノバンさん、ぼく義務ぎむというのは、こういうわけですーー」と、ジャックがいかけるのを、
「これ、ジャック!」と、ブリアンはあわててジャックの言葉ことばさえぎり、めた。けれどもジャックはかなかった。ふるえるこえげて、
「いえ、にいさん、もうぼくなにもかもざんげさせてください。ぼくはこのうえ秘密ひみつをもっていると、くるしくって、くるしくって、たまらないんです。ドノバンさん、みなさん、いてください!みなさんがいえはなれ、両親りょうしんわかれて、こんな孤島ことうながいてくるしんでいるというのも、みんな、みんな、この僕一人ぼくひとりがやったことなんです。ぼくという大馬鹿者おおばかもの原因げんいんだったんです。ぼく大罪人だいざいにんです」とって、ジャックは、いっそうこえげて、
「みなさん、スローごううみながたのは、みんなぼくのせいなんです。ぼくがなんかんがえもく、いいえ、いつものいたずらごころで、みなさんをおどろかそうとおもって、あの・・・あのともつないたのです。すると、ふねは、だんだんうみながました。ああ、あのときぼくおどろきとったら!あわててつなめようとしましたが、もうおそかった!みなさん、ぼくつみゆるしてください。ゆるしてください」
わるとともに、ジャックはにひれして、こえをあげてした。
ブリアンも涙声なみだごえで、
「よし、ジャック!よくおまえはざんげしてくれた。それでこそおまえぼくおとうとだ。それで、おまえつみ一部いちぶつぐなうためにおまえいのちそうというのだな」
しばらくのあいだ一同いちどう沈黙ちんもくした。あたりがきゅうにしーんとなる。すすりきのこえが、あちらこちらにおこった。
ふいにドノバンが沈黙ちんもくやぶってった。
「ジャックくん、よく、・・・よく自分じぶんつみをざんげしてくれた。でも、きみはもうとうに自分じぶんつみつぐなっているではないか。これまでも、きみは一度いちどならず二度にど三度さんども、自分じぶんいのちして、僕達ぼくたち危険きけんすくってくれたではないか。ああ、いまからかんがえると、ブリアンくんが、いつも危険きけんのあるたびに、おとうとしてやった理由りゆうがわかった。それにしても、ジャックくんきみは、よくも冒険ぼうけんのたびごとに、すすんで自分じぶんそうとしてくれたね。僕等ぼくらは、あのスケートのことけっしてわすれない。ああ、熱愛ねつあいするジャックくんぼくはまっさきよろこんで、きみつみゆるすよ。これはつみではない、過失かしつだ。ほんの過失かしつだ!その過失かしつも、君自身きみじしんがもう十分じゅうぶんつぐなっているのだ。これ以上いじょうは、きみすこしも義務ぎむはない」
強情ごうじょう傲慢ごうまんなドノバンも、いまこそはじめて、生来せいらい本性ほんしょうかえったのだ。同情どうじょう度量どりょうおおきなこころが、自然しぜんいてうごいて、第一だいいちにジャックをかばい、ジャックのつみゆるそうとした。
かれはジャックのかたいてこえをあげて、いた。
一同いちどうはかわるがわるをさしのべて、ジャックのにぎろうとした。
「ジャックくんぼくゆるすよ」「ぼくゆるす」「ぼくも・・・」「ぼくも・・・だから、心配しんぱいしないでね」とじゅう四人よにんは、ことごとくゆるしたのだ。けれどもジャックは両手りょうてかおてたまま、していた。
しばらくして、ジャックはすすて、
「ですから、みなさん、ぼくこそ第一だいいちに、このかごらなければならないのです。にいさん、ぼくうことは間違まちがっていますか?」ブリアンは、つかつかとおとうとのそばへった。おもわず、ひしとおとうといて、
「よくったジャック。よくってくれた」あとの言葉ことばなみだえた・・・。
ドノバンたちは、どうしてもジャックをおもいとどまらせようとした。けれども、ジャックはかなかった。どうしてもかなかった。
そのときかぜいきおいがますますはげしくなるようにみえた。ジャックの決心けっしんかたく、一同いちどうすすんで握手あくしゅをしたあと、はやくもかご土袋つちぶくろして、自分じぶんがそこへはいろうとした。
あにのほうにむかって、「にいさん、ぼくに、もう一度兄いちどにいさんにキスさせてください」まわりの一同いちどうは、おもわずなみだんだ。おさないジャックのいじらしさに、おもわずもらいきをした。ドノバンなどは、こえげて、おいおいいた。
「ああ、いいとも。さ、はや最後さいごのキスをしなさい・・・だがね、おまえより、にいさんが、おまえにキスするよ。なぜなら、にいさんがそのかごるんだ!」
「えええ!」ジャックはうしろへのけぞるばかりにおどろいた。
にいさん、あなたがるんですって?」
ドノバン、サービスもくちをそろえて、「なに、ブリアンくんきみるんだって?」
「ああ、そうだよ!ぼくるんだ!おとうとつみつぐなうには、あにがやっても、おなじことじゃないか。兄弟きょうだいだとすれば、おな両親りょうしんっているんだからね。いや、こんな危険きけん計画けいかくてるからには、最初さいしょから僕自身ぼくじしんろうと決心けっしんしていたんだ」
「いえ、いえ、にいさん、ぼくらせてください」ジャックは、かごびつこうとした。ドノバンはそばから、
「そういうことなら、ぼくだってりたい!ぼくだってそれを要求ようきゅうする権利けんりはある」
「ドノバンくん、それはいけない。ぼく決心けっしん最初さいしょからまっていたんだ!」
ブリアンは、きっぱりとつよはなった。
ゴルドンは近寄ちかよってブリアンのをひしとにぎった。
「ブリアンくん、ではだれわず、きみたのむ。ぼくはね、最初さいしょからきみ決心けっしんがよくわかっていたんだ」
こうして、ついにものまった。
たこはブリアンをせたまま、するすると中空高ちゅうくうたかのぼった。のこされたガーネットに、合図あいずいとのこしたまま、たこ闇夜やみよそら姿すがたかくした。
一同いちどうは、いきころして、ただだまってその行方ゆくえ見守みまもっていた。たこは、さいわいにもまえおなじように、傾斜けいしゃもせず、あたまらないで、うえうえへとがっていく。うえのブリアンは、かご四方しほうったなわ両手りょうてでしっかりとにぎって、悠々ゆうゆうのぼってったが、空気くうきるにつれて、かごつたわる一種いっしゅ振動しんどうは、体中からだじゅうにぶるぶるとつたわってひびき、なんだかこわくもあり、こそばゆいようなかんじもして、なんともいえず気味きみわるかった。
十分じゅっぷんばかりのぼると、不意ふいなにかにたったようなひびきがして、かごがコトリと振動しんどうしたのをかんじた。いとびきって、たこまったのだ。
ブリアンは、片手かたてなわを、片手かたて望遠鏡ぼうえんきょうして、しずかに下界げかい見下みおろした。
湖水こすいや、はやしや、岩壁いわかべや、すべて一色いっしょくくろよるなかぼっして、うみだけがほのあかるくえる。しかし、きたみなみ西にし三方さんぽう密雲みつうんざされて、なにえない。ひがしほうだけは、くもがちぎれてそらあらわれて、いくつかのほしが、きらきらとやみなかにきらめいているばかりだ。

ると、ひがしいっしょには、ぼうっとあかひかりがあって、それが地上ちじょうくもそううつって、はっきりとえた。たしかにひかりらしい。が、距離きょり数十すうじゅっキロメートルのとおいところである。「すると、しま彼方数十かなたすうじゅっキロメートルのところに一帯いったい陸地りくちがあって、火山かざんがあるのかな」
ブリアンのあたまには、いつか欺瞞湾ぎまんわん白点はくてんのことが、ふっとうかんだ。
かれは、いっそうするどた。すると、そのよりもずっとちかく、自分じぶんからわずか八九はちきゅうキロメートルまたもひとすじのひかりがえている。場所ばしょは、欺瞞湾ぎまんわん浜辺はまべか、その浜辺はまべみずうみきしあいだはやしなからしい。まごうことない悪人あくにんワルストンの一味いちみだ!
ブリアンは合図あいずとした。偵察ていさつおわったのだ。
したでは、上空じょうくう様子ようすはどうか?と、固唾かたずんでいた一同いちどう、「それ」とすぐさまウインチを逆回転ぎゃくかいてんはじめて、たこおろはじめた。合図あいずるまでの、この二十分にじゅっぷんが、一同いちどうにはどんなにどおしかったことであろう。
あいにくにも、そのとききゅうかぜいきおいがわってきた。きつのってくるかぜなかに、たこは、ややもすると、あたまろうとするらしい。おろいとは、るかとおもえば、またゆるんで、ウインチの回転かいてんが、おもうようにいかない。
ブリアンから合図あいずてから、はやくも一時間四十五分いちじかんよんじゅうごふんたったが、たこはまだ百五十ひゃくごじゅうメートルもうえにあるらしい。そこへ、突然とつぜんさっとひとしきりつよかぜいた。同時どうじに、ウインチにつかまっていたドノバンはじめ六名ろくめい少年しょうねんたちは、ばたばたとむこうへされた。
たこいとが、ぷつりとれたのだ。たこは、ブリアンをせたまま、あっというに、行方ゆくえらずやみなかってしまった。